こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。前回は、気候変動対応の一つの方向性として、ウェザーMDを利用した商品開発の概略を解説しました。今回は少し方向性を変え、ウェザーMDの在庫管理、在庫配置(配荷計画)への応用という観点で、商品前線とその活用法について解説します。
商品前線とは
気象の世界では、温暖前線・寒冷前線・停滞前線などのように、性質の異なる2つの空気が接する部分を〇〇前線と表現することがあります。そして季節変化の分野でも、春の桜前線や秋の紅葉前線のように、季節現象が到達したエリアとその面的な広がりの様子を示すにあたり、〇〇前線という表現が用いられることがあります。
前線の考え方をウェザーMDの分野に応用したのが“商品前線”です。気温と売上の間に関係性が認められる商品において、売上動向に変化が生じるタイミングを見極める際や、時期による地域的な拡大具合を面的に捉えるために示したものです。
商品前線の活用法
商品前線の、企業内部向け活用法と、対外的な活用法について解説します。
メーカー内部での活用は主に、自社商品の気象特性の把握と、在庫管理配荷計画への応用です。自社商品が何℃くらいの気温に反応して売上動向に変化が生じるか、それが日本地図に投影するといつ頃かが分かるので、地域別の配荷計画あるいはより迅速に配荷を進めるための地区倉庫単位での在庫管理計画にも活用します。商品によっては、売上がピークを迎えた後、縮小期を迎えるタイミングでも前線を描くことができるため、その場合は在庫を他地域に転送するための時期目安として活用することも可能です。
対外的な活用法としては、販促ツールとして小売りのバイヤー向けの営業資料に活用したり、POPとして店頭で掲示したりするといったことが考えられます。特に季節商品に関しては、店舗にいらっしゃるお客様に季節感を味わっていただくための後押しとなることが期待されます。
自社商品の商品前線を作成しよう
自社商品の売上に関するPOSデータを使って、商品前線を作成してみましょう。対象となる気象データは、気象庁のホームページから無償でダウンロードできます。ここではその手順を非常に簡単に説明します。
- Step1 気温と売上の関係を図化する
- Step2 売上動向に大きな変化が生じる温度(変局温度)を図から読み取る
- Step3 色々な地域において変局温度に到達する時期を調べる
- Step4 等値線を描く手法で、Step3で調べた時期をマッピングする
より具体的な手順等、お知りになりたい場合は、こちらまでお問い合わせください。
商品前線事例紹介
以前の調査発表において、「コーラ」、「蚊取り線香」など、主要な春夏物商品において商品前線を作成し公開しました。参考までにこちらもご覧ください。
また、主に流通小売り各社を対象とした専門誌「月刊商人舎」2025年3月号(3月10日発刊)では、売上動向と気温との間に関係性が認められる主要な30余カテゴリにおける商品前線を紹介しています。ポイントは、昨今の急速な気候変動に伴って、商品前線の形も変化しているということです。気温が高ければ高いほど売れると思われた一部の商品において、昨今の夏、気温が高すぎることによって売上が伸び悩む具体的なケース等も見られています。そのような時代の変化を逐次キャッチアップしていくべく、商品前線を数年程度の間隔で定期的に作成していくことは重要であると考えています。
次回は販促施策の観点の延長で、販促効果と気象の影響の切り分け法について解説いたします。
※気象庁ホームページについて 気象庁ホームページで公開している情報は、誰でも、利用規約に従って自由に利用でき、商用利用も可能です。出典の記載等の注意事項は下記の規約をご確認ください。 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/info/coment.html
〇「常盤勝美のお天気マーケティングブログ」過去記事はこちら https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing
〇「メーカー企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら 第一回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240801 第二回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240901 第三回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241001 第四回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241101 第五回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241201 第六回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20250101 第七回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20250201 第八回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20250301
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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。