メーカー企業のための気象&購買データ活用法       第7回 異常気象に備えるための心得とは

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。前回大胆仮説を提示したように、2050年頃の世界は気候変動がさらに進み、日本でも今以上に極端な現象が頻繁に起こることが考えられます。今回以降は、進行する気候変動に対応して流通業界ではどのような対策を検討すべきか、その方向性や手順をご説明します。

異常気象に備えるためのステップ確認

気候変動が進んでいる、異常気象が今後一層、頻繁に起こるようになるといわれても、その対策として何から手を付けて良いか分からない場合もあるかもしれません。まずは異常気象に備えるためのステップから確認することにします。

なお、今後起こり得る異常気象については、バックナンバーを改めて見返していただければと思いますので、ここでは割愛します。

Step1 リスクの内容を把握する

まずは異常気象の頻発によって自社が背負う可能性のあるリスクをなるべく細かく洗い出しましょう。極端な高温・低温、猛烈な雨・大雪など様々な現象が発生した場合の全部署への影響を、ブレーンストーミング的に考えます。下記にはそのごく一部の例をリストアップします。

Step2 リスクの規模と影響を評価する

リスクと影響の関係性を、可能な限り定量的に評価します。異常気象の発生に伴う売上減少効果や損害額の概算を試算します。具体的には、本社あるいは工場が被災した際の原状回復にかかる費用や、極端な気温による売上の落ち込み度合いなどです。

なお、気候変動によって自社に新たにどのような気象リスクが生じているか、また高温・低温・大雨・少雨などの極端な現象(リスク)が従前と比べてどれだけ増大したかを試算するのは難しいことです。気象や気候変動に関する知識のほかに、細かい気象データと統計解析のスキルが必要です。筆者や、あるいは自社で取引のある気象会社に相談していただくのが良いかと思います。

Step3 リスクへの対応範囲を検討する

異常気象の中には、確率的に“30年に1度”、“100年に1度”、“1000年に1度”のようにまれな頻度で起こるような現象もあります。確率が低くなればなるほど程度の激しい現象です。そこで仮に、1000年に1度の現象が発生すると自社が傾く可能性すらある、となった場合、その現象に対して万全に備えるべきでしょうか。本連載第4回(リンク挿入)でコストロスモデルについて説明しました。確率によって発生する現象に伴うロスに対してコストをかけて対策を講じるべきかどうかを見極める手法です。本例もコストロスモデルに近い考え方ではあります。ただ、現象の発生確率が十分に低くそれに対して発生するロスの規模が非常に大きくなる場合は、ロスの期待値計算を精緻に行うことが難しいため、今回はコストロスモデルによる試算は必ずしも適しません。また、ロス対策にかかるコスト規模も、各社の状況や対策の程度によって変化します。そのため、どのレベルのリスクにまで対応するか、どのような対策を取るか、社内でのコンセンサスをとった上で、最終的には各社の経営判断ということになるかと思います。

Step4 対策と手順を考える

対策にもいくつかの方向性があります。事前対策(危機管理、リスクヘッジなど)や復旧を迅速に進めるための準備、代替手段の策定は代表的なものです。それ以外にもリスクを新たな商機と捉えることもできます。気候が変化すれば、それに対応して人間の生活様式、文化、トレンドなども変化する可能性があります。すなわち、今後予想される気候の状態に適した新たなトレンドを作り上げることができるチャンスでもあるのです。

なお、社内努力だけではヘッジしきれないリスクがある場合は、それに対応した保険契約を、保険会社と結ぶのも一案です。

次回は、気候変動への対応策のうち、新たなトレンド作りにつなげることができる前向きな施策として、ウェザーMDを利用した商品開発への応用について、その方法とポイントを解説いたします。

※気象庁ホームページについて                          気象庁ホームページで公開している情報は、誰でも、利用規約に従って自由に利用でき、商用利用も可能です。出典の記載等の注意事項は下記の規約をご確認ください。      https://www.jma.go.jp/jma/kishou/info/coment.html

〇「常盤勝美のお天気マーケティングブログ」過去記事はこちら  https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing

「メーカー企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら                 第一回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240801                    第二回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240901                    第三回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241001                    第四回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241101                    第五回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241201                    第六回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20250101

〇コンサルティング、講演・セミナーのご依頼、True Dataへのお問い合わせはこちら  https://www.truedata.co.jp/contact                        本稿の内容をもっと詳しく知りたい、自社の業務に落とし込んだ具体的な内容を聞きたいというご要望がありましたらお気軽にお問合せください!

株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。