メーカー企業のための気象&購買データ活用法       第6回 大胆仮説!2050年の日本の天候

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。前回の『メーカー企業のための気象&購買データ活用法』第5回では、「今後の日本の気候はどうなっていくのか? 」と題して、近年の気候変動の状況と今後の予測について、主な気象要素別に解説しました。今回第6回ではそれをもう少し掘り下げ、具体的なイメージを仮説として示そうと思います。今から25年後の2050年の日本の天候について、流通業界に大きな影響を及ぼす可能性があるポイントを中心に、大胆仮説を立ててみます。そして最後に、それに対応してメーカー企業はどのような対策を検討すべきか、考え方のヒントを記します。

大胆仮説① 40℃以上の気温を観測していないのは沖縄県だけ?

地球沸騰化に伴う記録的な高温は今後も続くでしょう。気温が40℃を超えることが珍しくなくなりつつあります。2024年末現在、40℃以上の気温を観測した地点があるのは以下の18都県です。

今後も40℃以上の気温を観測する地点、地域は増え続けるでしょう。周囲を海に囲まれ極端な気温上昇が起こりにくい沖縄県以外、2050年までには全ての都道府県で40℃以上の気温を観測する地点が出現すると予想されます。東京都心でも気温が40℃を超える日が見られる可能性があります。ちなみに現在の東京都心の最高気温記録は2004年7月20日に観測された39.5℃です。

大胆仮説② 11月にも真夏日地点続出?

日本付近では夏場、小笠原方面からの暖かい南風が吹きやすい天気図パターンとなりますが、10月中旬頃以降は主役が入れ替わり、シベリア方面からの冷たい北西季節風が吹きやすくなります。したがって、11月以降は沖縄県や九州南部などごく一部の地域を除いて最高気温が30℃の真夏日となることはほぼありません。しかしながら地球沸騰化によって11月も南からの暖かい空気が日本列島に流れ込むことがまれに起こり、沖縄、九州南部以外の地方でも真夏日が出現することが予想されます。ちなみに東京都心で最も遅い真夏日は今年2024年10月19日に観測されました。11月の真夏日も、そう遠くない未来かもしれません。

大胆仮説③ 年末年始に台風接近?

地上の気温同様、日本周辺の海水温は季節によって上下します。当然ながら夏季は海水温が高く、冬季は海水温が低くなります。現在の平均的な海水温水準、そしてシベリア方面からの冷たい北西季節風が吹きやすい天気図パターンであれば、冬季に台風が発生することはまれにあっても、日本近海に接近することはほぼありません。

台風に関する統計が残る1951年以降で、台風の上陸した日付が最も早いのが4月25日(1956年3号)、最も遅いのが11月30日(1990年28号)です。沖縄・奄美を除いて考えれば、12~3月は台風上陸だけでなく台風が接近(最寄りの気象官署等からおおむね300km以内)したこともありません。

しかし2050年頃にはこの常識が通用しなくなる可能性があります。日本周辺の海水温が上昇し、冬場でも日本のすぐ南海上まで、台風が勢力を維持できる水準となることが予想されます。

大胆仮説④ 梅雨(梅雨入り/梅雨明け)がはっきりしない年がある?

今後の気候変動は、日本周辺にどのような変化をもたらすか、まだ分かりません。ただ近年、梅雨入り・梅雨明けのタイミングが年によって大きく異なったり、明確に時期が特定しにくかったりすることがあります。2050年頃には、明確な梅雨期間を認定しにくいまま(つまり、梅雨入り・梅雨明けの日付を明確に特定できないまま)本格的な夏に突入していく年もあることが予想されます。

大胆仮説⑤ 関東以西の太平洋側では、桜が満開にならない?

桜の開花は、花見宴会など大きな関連消費をもたらす季節イベントとしてだけでなく、近年は桜の花見を主目的としたインバウンド需要も増えるなど、日本の様々な産業界において非常に重要な位置づけとなっています。しかしながら、植物の栄枯は通常、気候の影響を直接的に受けるため、急激な気候変動が起こると植物がそれに対応しきれない場合があります。

桜の開花には、冬から春に向けての気温上昇に加えて冬場の一定以上の冷え込み(休眠打破)が必要です。今後もし記録的暖冬に見舞われるシーズンがあった場合、休眠打破が起こらず、不時現象(季節外れの開花)が頻発したり、開花しても満開にならないまま散ってしまったりするリスクが高まることが予想されます。

大胆仮説⑥ 東京で積雪50cm?

東京におけるこれまでの最大積雪の記録は、今から140年以上も前に観測された46㎝(1883年2月8日)です。温暖化が進めば、全般に雪の日数が減少することは容易に想像できます。一方で、ごくまれに極端なドカ雪に見舞われる可能性が捨てきれません。たまたま南下した強い寒気、日本の南海上の高い海水温による水蒸気供給など様々な条件がぴったり当てはまった場合、通常雪の少ない太平洋側の地方でもこれまでに経験したことのないようなドカ雪に見舞われることが予想されます。事実、山梨県甲府市では、2014年2月15日、従前の最大積雪記録(49㎝)の2倍以上となる114㎝の積雪を記録しました。

大胆仮説⑦ 北陸では積雪1mのシーズンがあれば0㎝のシーズンも?

雪に関しては、冬場に雪の降ることが多い日本海側でも、これまでにあまり経験のないことが起こる可能性が高まります。2019/2020年冬季(2019年12月~2020年2月)、新潟市では、シーズン中最大1㎝しか雪が積もりませんでした。温暖化が進めば、豪雪地帯であるはずの北陸などでも、積雪を全く記録しないシーズンが見られる可能性があります。一方で近年、雪による交通障害が問題となっているように、短時間のうちに記録的なドカ雪に見舞われることもあります。最大積雪1m以上を記録した翌シーズンは全く雪が積もらなかった、なんてこともあるかもしれません。

メーカー企業はどのような備えをするべきか

今回は大胆仮説を一部披露いたしましたが、これ以外にも様々な“想定外”が起こることが十分考えられます。それに対してメーカー企業はどのような備えをするべきでしょうか。

まず議論すべきポイントは大きく2つ。比較的短い時間スケールで発生する異常気象に対する備えと中長期的な異常気象(気候変動)に対する備えの切り分け、そして、どのレベルの“想定外”までカバーして対応するかの検討です。

今回は気候変動に伴う想定外にどこまで備えるべきか、ヒントの部分まで簡単に述べましたが、次回以降そのヒントの部分そして対応策の方向性について詳しく解説します。

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。