メーカー企業のための気象&購買データ活用法       第3回 長期予報に基づく売上の予測値計算法

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。『メーカー企業のための気象&購買データ活用法』(第2回)では長期予報の見方、活用の仕方について解説しました。今回は長期予報の実践的活用法として売上をシミュレーションする方法について、説明します。

Step1 売上シミュレーションを行う前に

売上シミュレーションを行うにあたり、その計算式を作ります。まずはそのために必要となるデータを揃えましょう。具体的には自社の売上実績と、気象庁が発表している気温実績のデータです。長期予報に基づく売上シミュレーションということで、今回活用する予報は気象庁発表の3か月予報を前提としています。3か月予報における気温予想の時間解像度が1か月単位であるため、後で計算しやすいように自社の売上データおよび気温実績も、それぞれ月単位のデータを用意します。

ちなみに月単位の気温実績データは気象庁の以下のページ(図1)からダウンロードできます。自社商品の展開地域を想定し、代表的な気象観測点を選びます。

図1 気象実績データダウンロードページ(https://www.data.jma.go.jp/risk/obsdl/index.php

ここで確認事項があります。気温には、最高気温、最低気温、平均気温といった複数の種類があるという点です。3か月予報における気温予想は基本的に、平均気温を対象としていますので、ここでは平均気温を選択してダウンロードするのがおすすめです。

ただし、日々マスメディア等で報道されている天気予報では、平均気温ではなく、最高気温、最低気温の予想という形で発表されるため、平均気温にあまりなじみがないかもしれません。その場合は、最高気温あるいは最低気温を用いた分析でも差し支えありません。

ちなみに春夏物商品は最高気温、秋冬物商品は最低気温との関係性がより強い場合が多くなっています。

次に地点選択についてです。自社商品を全国に展開しているなら、代表地点として東京を選ぶのが一案です。関東圏が日本国内で最も人口の多いエリアだからです。地方単位でおおよその売上比率が分かっているなら、それぞれの地方単位で売上シミュレーションを行った後、地方単位の売上比率に合わせてシミュレーション値を按分するとシミュレーションの精度アップが期待できます。

各地方の代表地点は以下のとおりです。

※新潟は金沢で代用可能。高松は高知、松山、徳島でも代用可能。

Step2 気温と売上データとの突き合わせ

Excelなどの表計算ソフトを使い、両者の関係を分析する処理を行います。1列目に年月、2列目に気温、3列目に売上実績のデータを配置し、ソフトの機能を使って散布図を作成します(図2)。横軸に気温、縦軸に売上を設定すると、気温の上下によって売上がどのような反応をするか、視覚的に確認することができます。

図2 Excelでのデータ準備例と散布図

Step3 売上予測シミュレーション式の構築

表計算ソフトの機能を使って、線形近似直線を描きます(図3)。通常、表計算ソフトの中にある機能であるため、特に複雑な計算は必要ありません。オプション機能で計算式を図中に示すことができますので、その数式を売上予測計算に使います。

図3 Excel内の機能を使って近似直線を描き、その式を表示させた例

ただし、散布図の状況によってちょっとした工夫をすると良い場合があります。図4は乾麺の売上と気温の関係を示した散布図ですが、同じ温度帯でも時期(季節)によって売上が異なっています。これは季節商品によく見られる散布図の傾向です。

このような散布図を示した場合、年間を通した近似直線を描くと(図5)、実際のプロットと近似直線がずれているところが多く、売上のシミュレーションを行うには適切ではありません。そこで期間を区切って近似直線を引き需要予測式を作ることで、当該期間の売上予測精度を向上させることができます。図6を見ていただくと分かるように、近似直線に対して散布図のプロットのばらつきが小さくなります。

図4 気温と乾麺の売上の関係を示した散布図(※プロットは月ごとに色分けしています)
図5 気温と乾麺の売上の散布図の全区間を対象とした近似直線(※同上)
図6 気温と乾麺の売上の散布図のうち、4~7月のみを対象とした近似直線(※同上)

Step4 3か月予報気温を代入しての売上予測計算

シミュレーション式の中のx(統計用語で説明変数と呼びます)に、長期予報の中の気温の予測値を代入します。それにより売上y(統計用語では目的変数と呼びます)を計算して求めることができます。ここでの気温の予測値は、前回(第2回)の内容を参考に試算してみてください。

以上のステップをもって、気温予想に基づく月単位での売上の予測値を求めることができます。当然ながら実際の商品の売上は気温以外にも様々な要因を受けて変動します。気温予想に基づく売上シミュレーションを行った後、気温条件以外の外的要因も加味して売上シミュレーションの調整を行います。

さて次回は、今回求めた売上のシミュレーションに加えて、売上の伸び悩みが懸念される気候が予想される場合に施策を行う対策費などのコストも加味した損益シミュレーションのやり方を、「コストロスモデル」と呼ばれる手法を用いて解説します。

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「メーカー企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら                 第一回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240801                    第二回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240901

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。