メーカー企業のための気象&購買データ活用法       第2回 気象予報士が教える、長期予報の活用方法と行間の読み方

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。前回から始まりました『メーカー企業のための気象&購買データ活用法』。今回はその第2回です。前回(第1回)でご案内したとおり、長期予報の活用方法について解説します。長期予報とは気象庁から発表される季節予報のことで、地域ごとに1か月、3か月、暖・寒候期の3種類の予報があります。長期予報をより具体的に活用できるようになると、気温に応じた打ち手をいち早く検討できるようになるので、ライバルに一歩差をつけることができるかもしれません。

3か月予報は図1のように、地方単位で、気温であれば「平年より低い確率:平年並の確率:平年より高い確率」の3つの確率の数字が表記される形式となっていて、これらを足し合わせると100(%)となります。この確率表記が何かと使いにくいと言われるのですが、そこから読み取れる情報は結構あります。今回は気温の予報を例に、長期予報の活用の仕方、行間の読み方を、要点2つに絞り込んで解説します。

図1 長期予報の例
※図中の数字は左から順に「平年より低い確率:平年並の確率:平年より高い確率」
 

テクニック① 確率表記を予報の自信度と読み替えて、平年値と組み合わせる

長期予報においてなかなか使いづらいと思われがちな確率表記。具体的な気温の予測値ではなく、予想されるカテゴリ(低い/平年並/高い)の出現確率の値なので、この確率の数字をそのまま利用して需要や在庫などの将来計画を定量的に計算することは困難です。

そこで確率表記を予報の自信度と読み替えて解釈します。確率表記としてよく採用されるパターンは以下のとおりです。

表1 長期予報の確率表記内容でよく登場するパターン
※これ以外の確率表記になることもあります。また長期予報より短いスパンである1か月予報の場合は、もっと大幅に偏った確率パターン(例えば、10‐10‐80など)になることもあります

ここで、低い(高い)確率が50%以上の場合は、かなり低く(高く)なる可能性も高まっていることを認識する必要があります。そしてあるカテゴリの確率が50%以上と偏ったパターンになるときは、気象庁としても予報の自信度が比較的高いと解釈すると良いでしょう。確率の高さをすなわち自信度の高さと読み替えます。

自信度を把握した上でもう1つ重要になってくるのが「平年値」及び「平年並の範囲」に関する情報です。気象庁のHPにある「予報期間の平年値」というページでは、予報対象期間の地方単位での平年並の範囲が表に示されています。例えば9月、東日本での気温の平年並は平年値の-0.7~+0.6℃の範囲内となっています。これとご自身が知りたい地方あるいは地点の平年値を組み合わせることで、気温の予測値を推定しましょう。地点ごとの平年値はこちらのページから項目を選択します(予報が月単位なので、平年値も月単位の値を用います)。「平年並」の予報の場合は、平年値の値そのままを、「平年並か高い」予報の場合は平年並の範囲の上限値の1.5倍程度の値を平年値に加算した値を、「高い」予報の場合は同じく3倍程度の値を平年値に加算した値を当該期間の予想気温と仮定すると良いでしょう(表2、表3参照)。

表2 東京における9月の気温の平年値と平年並の範囲
表3 東京における9月の気温予報(確率表記)に基づく予想気温推定

平年よりかなり高く(低く)なる予報の場合は、加算規模を±4倍程度の値にしてもいいかもしれません。予想気温を定量的に推定したら、調達・生産・出荷・在庫の各計画値を試算する際の係数として採用することができるでしょう。CM出稿など販促時期の見極めにも応用可能です。是非参考にしてみてください。

テクニック② 前回発表内容からの変化を読む

予報内容の推移(変化)を確認することで、予報の信頼度をはかったり、予報が外れる可能性がある場合、高温・低温どちら方向にぶれる可能性があるかを推測したりすることができます。

例えば、7月の3か月予報の対象期間は8~10月、8月の3か月予報の対象期間は9~11月であることから、9月と10月の予報が、更新されたと解釈することができます。そこで予報にどのような変化があったかなかったかを見極めるものです。

今年7月及び8月の3か月予報で実際に検証してみます。

図2 3か月予報における9月の気温予想(上:7月23日発表、下:8月20日発表)

図2の上は7月発表の9月の気温予想、下は8月発表の9月の気温予想です。

北海道、東北、奄美、沖縄地方では予報内容に変化はありません。それに対して北陸、関東甲信、東海、近畿、中国、四国、九州では「平年並」の確率が10%減り、その分「高い」確率が10%増えました。これらの地方では直近になって高温傾向がより決定的となる状況(大気の流れなど)の変化があった可能性があります。つまり、もはや9月は気温が低めとなることはほぼないと解釈すべきです。

図3 3か月予報における10月の気温予想(上:7月23日発表、下:8月20日発表)

それに対して図3は、上が7月発表の10月の気温予想、下が8月発表の10月気温予想です。全地方ともに予報内容に変化はありません。予測されている状況が安定していて、信頼度が高いとみなすことができます。

このように、予報内容の変化の状況を見ることも、長期予報活用時、より信頼性を持つことができるかどうかの判断には有効です。

ちなみに、気象庁が計算を行った長期予報モデルの出力結果を購入して使う方法もあります。気温などの予測値を具体的な数値データで入手することができるため、需要、売上などの計画値の計算を行う際に、その係数として代入することができます。データの購入先は、気象庁の外郭団体である「一般財団法人気象業務支援センター」あるいは、民間の気象事業者です。こちらに関してより詳しくお知りになりたい方は、別途ご案内しますので、お問い合わせください。

次回は予想気温の値から売上のシミュレーションをする方法や、「コストロスモデル」と呼ばれる活用実践方法について解説します。

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「メーカー企業のための気象&購買データ活用法 第1回」はこちらhttps://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240801

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。