大地震が起きたときの「飲料水」の売れ行き

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。9月1日は、今から101年前の大正12年、関東大震災が発生した日です。日本の有史以来、最悪の自然災害といわれています。世界有数の地震大国である日本では、大地震はいつどの地域に起こってもおかしくありません。今年の元日にも能登半島地震が起こり、甚大な被害が発生しています。また、8月8日には、日向灘でマグニチュード7.1の大地震が発生しました。直後には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が、運用開始以来初めて発表されるなど、人々の防災意識が高まっていることが考えられます。今回は、1月の能登半島地震発生後の購買データをもとに、大地震が起きたときの「飲料水」の売れ行きに焦点を当ててみました。

大地震発生時の、飲料水需要

2020年9月30日付のブログ「台風10号接近時の飲料水の購買動向」では、大型台風が接近しているときの飲料水の需要をご紹介しました。今回は、同じ自然災害でも、台風ではなく大地震発生時について、飲料水(当社カテゴリ名は「水」)の需要をご紹介します。まず、全国の集計値で飲料水の購入推移を示したのが図1です。

図1 飲料水の購入推移

前年同週を同時期の標準的な需要レベルと仮定し、前年同週と比べた売上伸び率を大地震の発生による飲料水の需要の高まり度として計算したのが表1です。

表1 1月1日週を含む前後5週間の飲料水の対前年売上伸び率

通常に比べて20%以上の需要の集中があったものと見込まれます。

エリア別の需要の集中度

2024年1月1日の能登半島地震は、“中部地方”で発生したものです。図1は飲料水の売上を全国で見ましたが、少しエリアを細分化し、大地震による購買動向の変化がどの範囲まで及んだのか、データで確認しました(表2)。

表2 各エリアの1月1日週の飲料水の対前年売上伸び率

今回の例では、九州地方ではほとんど大地震による購買動向の変化がなかったと考えられます。また北海道で大きな売上伸長率となっていますが、これも大地震以外(例えば前年に比べて気温がかなり高かった、など)の影響を受けた可能性があります。それ以外は、震源に近く最も被害の大きかった中部で前年比+97.2%という非常に大きな伸びを中心に、そこから離れるにつれて伸び率は低くなっていますが、東北~中四国まで大地震のニュースを見て、一部の人に「とりあえず飲料水を買っておこう」という購買者心理が働いた可能性が分かりました。

まとめ

2020年9月30日付のブログで示したような大型台風接近時の場合は、事前におおむね予想されているので、流通小売り側でもある程度の準備が可能です。

しかし大地震の場合は、発生予知は極めて難しいものです。現在気象庁では、「南海トラフ地震に関連する情報」を発表しています。平成29年まで、「東海地震に関連する情報」として発表されていたものが、東海地震だけでなく、南海地震及び東南海地震の想定震源域を含む南海トラフ地震に関する情報となっています。

大地震の発生する確率が高まるような、地殻変動などの現象が観測された場合、気象庁はそれをいち早く公表して、防災に対する意識を特に高めるよう、注意を呼び掛けています。

冒頭で記したように、8月8日に日向灘で発生したマグニチュード7.1の大地震では、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が気象庁から発表され、日向灘での地震をきっかけとして通常時と比べ巨大地震の発生確率が数倍程度高まったことから向こう1週間程度は巨大地震に注意するよう、呼び掛けられました。

実際の購買データ上の変化はまだ集計中ですが、小売り業界の方々から聞いた話によると、飲料水をはじめとした防災用品の需要が通常時に比べてかなり高まる変化が起こったそうです。

防災用品をお客様に購入いただくことは、万が一大規模自然災害が発生した場合の減災にもつながることです。特に消費者の防災意識が高まることが期待される時期には、欠品に注意して品揃えをしていただければと思います。

※抽出データ                                   株式会社True Data「ドルフィンアイ」に搭載されている、「水」カテゴリ(業態:スーパーマーケット、期間:2022年8月8日~2024年8月4日、データ抽出日:2024年8月15日)の週次の買物指数(買物指数は来店者100万人における購入点数)。

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。