こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。皆さんはきのこを使った料理といえば何を思い浮かべますか。またどんな季節によく食べますか。煮物に入れたり、味噌汁に入れたり、鍋物料理に入れたり、野菜炒めの具に使ったりなどでしょうか。今回は様々なきのこの売上と気温の関係を見てみました。
きのこの種類
きのこの売上として、当社True Dataの分類の中から今回は以下の商品のデータを抽出し、その売上と気温の関係を調べてみました。
きのこのウェザーマーチャンダイジング
大部分のきのこは、基本的に加熱料理してから食べます。ホットメニューの具材として使われることが多いため、きのこはウェザーMDの分類でいうところの降温商品(※注1)にあたります。種類によって売上と気温の関係にどのような違いが見られるのか、五十音順で散布図(横軸:気温、縦軸:売上)を見てみましょう。
- えのき茸
散布図の形は右肩下がり、つまり気温が高いほど売上は低く、気温が低いほど売上の高い様子がデータでもはっきり確認できます。最低気温5℃~20℃付近の中間的な温度帯では、気温が下がっていく時期である9月~11月頃と、気温が上がっていく時期である3月~6月頃とで売上水準に差があり、購買動向の季節性が現れています。
以下、このえのき茸の散布図を基準に比較してみることにします。
- えりんぎ
散布図を見ると、今回掲げたきのこ7種類の中で気温(季節)による売上の変化の幅(気温が高い時期と低い時期の売上の差)が最も小さくなっています。この図だけでは取り扱い規模の大きさを他のきのこ類と比較することはできませんが、えりんぎは季節に関わらず料理の食材として使われるシーンが多いと考えられます。えりんぎは日本の食文化に定着した歴史が最も浅いからか、特定の季節の定番メニューの具材に必ず入っているというものがないのが関係しているのかもしれません。また、12月のクリスマスを含む週と年末年始を含む週は、その時期の定番メニューで使われる他のきのこ類の売上の伸びの反動からか、購買指数が低くなっています。
確かに今年2021年(緑色)は、購入金額が大きく伸びた時期が、2019、2020年と比べて遅かったようです。一方10月後半の週では2019、2020年と比べて高い売上を示しています。
- しめじ茸
目安とするえのき茸と比べ、最も売れている時期と最も売れていない時期の買物指数の差が小さいため、季節による売上のばらつき幅が小さいようですが、気温との関係性(散布図の形)はえのき茸と似ています。違いは、中間的な温度帯での時期(春~夏と秋~冬)による売上差がえのき茸に比べて小さいところです。通年で食卓に上ることが多い味噌汁などの具として使われる割合が、しめじ茸のほうがえのき茸よりも多いから、という仮説を立ててみましたがいかがでしょうか。
- 生しいたけ
散布図の形は、12月(水色)の2つのプロットを除いて、えのき茸・しめじ茸と大きく違わないようです。その12月のプロットですが、跳ねた売上を示しているのが各年の年越しを含む週でした。いずれも年平均水準の2倍を超える購入実績を記録しています。12月のうち、年越しを含む以外の週のデータはむしろ、気温の割には売上が伸びていない場合もあるように見えます。これらの結果から考察できることは、大晦日の夕食用のすき焼き や、おせち料理の煮物、雑煮などの用途で生しいたけを購入する人が増える一方で、クリスマス頃の典型的なメニューの中ではあまり生しいたけを使わないためにその期間は一時的に売上水準が低くなる、という仮説です。
- なめこ
なめこも、気温変化による売上の振れ幅が小さいようです。真夏の8月でも年間平均水準を上回る売上を記録する週がありますし、真冬の1月でも年間平均水準を下回る週があります。さらに12月もクリスマスや年越しを含む週は売上が低水準になるようです。なめこというと鍋物料理というよりはみそ汁の具として使われるシーンをより思い浮かべやすいので、鍋物料理ほど、季節性が大きくないものと考えられます。
- まいたけ
散布図の傾向は、しめじ茸とほぼ同じように見えます。中間的な温度帯では季節による売上差も少し見られます。気温との関係だけから見れば、しめじ茸とまいたけはほぼ同類と考えることができるのではないでしょうか。
- マッシュルーム
他の6種類のきのこは全て、多少の傾向の強弱はあるものの、気温が高ければ高いほど売上も高く、気温が低ければ低いほど売上も低くなる傾向が見られます。しかし、このマッシュルームだけは12月のクリスマスを含む週のデータを除くと、少し異なる傾向が見られます。最も寒い時期でなく、11月頃を中心とした最低気温が5~17℃くらいの頃に売上のピークを迎えるという特殊な傾向です。シチューあるいはビーフシチューをつくり、それにマッシュルームを使う家庭も結構ある、というところでしょうか。
ちなみに寒さのピークとなる1月、2月頃は、11月頃に比べて少し売上水準が下がっています。本稿では気象条件との関係性しか着目していないので、ひょっとしたら1~2月にマッシュルーム独特の事情があるのかもしれず、少し気になるところです。
まとめ
今回はきのこ類に特定してその中の細かい商品別気温との関係性を調べてみました。まとめると売上の気温感応度は以下のような傾向にあることが分かりました。
発注や仕入れの量を決定する際、そのきのこ類を使ったメニュー提案を行う際、是非参考にしてみてください。
※抽出データ 株式会社True Data「イーグルアイ」に搭載されている各カテゴリの週次の購買指数(購買指数は週別購入金額の当該期間平均値を1としたときの比率)。
(※注1)降温商品・・・気温が低く、寒いと感じる日によく売れる商品群
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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。