お天気マーケティング実践編「リップクリームに関する仮説」

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。東京地方では11月4日、木枯らし1号が吹いたと発表がありました。2018年、2019年と2年連続で発表がなかったため、3年ぶりです。木枯らしが吹くということは、日本付近にはシベリア方面からの乾いた空気がどんどん流れ込んでくる季節が到来したということですね。ということで今回は、乾燥対策商品の中から、リップクリームの購買動向と気象条件の関係性について見てみることにしました。

なお、ここでは購買動向を表す指標として「買物指数」を使用します。「買物指数」は当社独自の指標で、来店者100万人当たりの売上を意味します。

リップクリームと気象条件との関係

乾燥時の唇の荒れを緩和するための商品であるリップクリームは、冬場に買物指数が高く、夏場に買物指数が低くなる特徴があります。日本では、冬場はシベリア方面からの乾いた北西季節風が吹きやすく、夏場は小笠原方面からの湿った南東季節風が吹きやすいためです。夏は気温が高く、冬は気温が低いことから、リップクリームの買物指数は気温とも関係しているように見えます。

そもそも日本では、夏の気温の高い時期は湿度も高くなりやすく、冬の気温の低い時期は湿度も低くなりやすいという感じで、気温と湿度の間に強い関係性があります。商品が売れ始めるとき、あるいは売れ行きが大きく伸びるとき、気温がきっかけになっているのか、湿度がきっかけになっているのか、明確に切り分けができない場合がほとんどです。 しかし、買物指数と気温及び湿度との関係をもう少し詳しく見ると、ある可能性が考えられます。

図1 リップクリームの買物指数と最小湿度の推移
※抽出データ:関東エリアにおけるカテゴリ「リップクリーム」の週次の買物指数と、
気象庁「東京」の最小湿度週平均値。抽出期間は2020年1月6日~2020年11月1日。
(出典:True Data 「ドルフィンアイ」/業態:ドラッグストア)
図2 リップクリームの買物指数と最低気温の推移
※抽出データ:関東エリアにおけるカテゴリ「リップクリーム」の週次の買物指数と、
気象庁「東京」の最低気温週平均。抽出期間は2020年1月6日~2020年11月1日。
(出典:True Data 「ドルフィンアイ」/業態:ドラッグストア)

気温、湿度に対する仮説

リップクリームの買物指数のグラフ(図1、図2)に注目すると、7月上旬頃今年の極小値を記録した後、ゆっくりではありますが徐々に買物指数が高くなっていきました。そして9月21日の週は前週に比べて指数の伸びが大きくなったことが確認できます。当該週は、9月21日の月曜日が敬老の日、翌22日火曜日が秋分の日と、祝日が続きました。通常週より休日が2日多いことが買物指数に影響を与えている可能性があるため、多少割り引いて考える必要があるかもしれません。それを考慮しても直前週に比べて買物指数の伸びは大きいように見えます。このとき、最低気温の週平均値は前週に比べて約3.8℃低くなっていました。そして、偶然なのかもしれませんが最低気温の週平均値がその秋以降初めて20℃を下回ったタイミングでもありました。一方、最小湿度に関しては約5ポイント上昇していました。湿度が低くなったから買物指数が伸びたとはいえないようです。

リップクリームの買物指数のグラフの中で、目で見て伸びが大きくなっているタイミングが2回ありました。9月28日の週と10月19日の週です。前週からのグラフの傾きが大きくなっており、2割以上伸びています。後者のタイミングでは最低気温が約3℃下がっていますが、前者のタイミングでは下がり幅は約1.4℃、これは通常のこの時期の季節進行に伴う降温とほぼ同じ水準です。その週の最小湿度をみると前週に比べて目に見えて下がっています。最小湿度が前週に比べて下がっているだけなら、10月12日の週も下がり方が大きいのですが、買物指数は前週に比べてほぼ横ばいでした。買物指数の伸びた9月28日週と10月19日週の共通点は、最小湿度が50%を下回っているということです。

表 週ごとの買物指数、最低気温、最小湿度の状況

以上のことから、私なりに仮説を立ててみました。

「リップクリームは最低気温が20℃を下回る頃から売れ始め、最小湿度が50%を下回るようになると販売数の伸びが大きくなります」

来店されるお客様の感覚で言い換えると、最低気温が20℃を下回ると夏から秋、冬への季節の進みを実感して秋冬物季節商品であるリップクリームへの関心が示されるようになります。そして最小湿度が50%を下回ると、空気の乾燥を本格的に意識するようになり乾燥対策への欲求が高まる、すなわち乾燥対策関連商品の購買行動につながるという仮説です。

仮説から法則を見つけるために

今回立てた仮説は、1つの商品の1年分のデータをもとに事例解析的な分析をした結果に基づくものです。たまたま今年だけに見られた傾向かもしれませんし、気象条件以外の要因の影響や偶然の産物の可能性もあります。この関係性が発注仕入れや在庫管理のために有効かどうか今後判断していくためには、ほぼ同じ条件での事例での分析を繰り返し行うことが重要です。例えば流通小売企業では、複数の店舗での購買データで傾向を調べることで、仮説の確からしさを検証することができます。また1年(1回分)のデータでなく、複数年のデータで傾向を調べることも非常に重要です。この検証を多くの商品で行うことにより、その企業、その商品、その店舗での法則を、是非どんどん見つけていただきたいと思います。

もし、これらの気象条件に基づく仮説立案や検証作業、ナレッジの強化にご興味のある場合は、是非当社までご相談ください!

株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。