こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。皆さんは、身の回りの自然の中で、どういったところから季節の移ろいを実感しますか。気温、道端に生える草花、日の出日の入りの時間、虫たちの鳴き声、旬の食材、お店の売場のディスプレイなどなど。私は昼夜問わず空を見上げることが好きなので、昼ならば雲で、夜ならば星座で季節を感じます。季節はそろそろ秋本番ですが今年の場合、日中はまだ夏の雲の代名詞、入道雲(雄大積雲)が多く見られます。一方で、夜遅い時間になると東からオリオン座の三連星やその左下にはおおいぬ座のシリウスが昇ってきます。これらは冬を代表する星ですが、夜遅い時間帯であればこの時期から見られます。年によって変わる天候と違い、星空はいつも着実な季節の進みを示してくれます。
9月5日(土)~7日(月)にかけて、台風10号が九州の西の東シナ海を、陸地をかすめるようにして北上し、九州、沖縄地方を中心に記録的な風や雨をもたらしました。被害にあわれた方々には謹んでお見舞い申し上げます。当初、特別警報級の勢力での接近が予想され、6日(日)から7日(月)は九州地方の多くの地域で交通機関が計画運休し、小売店舗が営業を取りやめる措置など最大級の警戒レベルでの対応がとられました。そんな未曾有の台風接近が予想されたとき、消費者がどのような購買行動をとったか、当社保有の購買データの分析から分かったことを解説いたします。ここでは特に典型的な購買動向がみられた飲料水(当社カテゴリーでは「水」)について取り上げます。
台風10号に関する時系列
台風10号は9月1日(火)の21時、小笠原近海で発生しました。それと同時に台風がその後日本列島に向かっているという進路予想が発表されました。翌2日(水)には、過去に例を見ないレベルに発達した状態で九州方面に接近あるいは上陸する可能性があるとして、異例の早い段階で気象庁は、台風10号に関する注意喚起情報を発表しています。ただその時点では台風10号への関心よりも、東シナ海中部をまさに北上中の台風9号の影響のほうが懸念されていたと思われます。
3日(木)、台風9号が朝鮮半島方面に遠ざかり、ニュースや天気予報では台風10号に最大級の警戒を促す内容が中心となりました。5日(土)深夜には中心気圧920hPa、非常に強い勢力で沖縄県南大東島に最接近、翌6日(日)の昼には鹿児島県奄美大島に最接近しました。この後、台風は猛烈な勢力にまで発達する可能性も予想されていましたが、幸い中心気圧は上昇、台風としては発達のピークを過ぎました。6日(日)9時半の気象庁の緊急会見において、特別警報発表の可能性は低くなったと説明しています。
台風10号は6日(日)夜、鹿児島県に最接近、7日(月)未明から朝にかけて、長崎県五島列島、対馬付近を通過して9時過ぎ頃、朝鮮半島南東部に上陸しました。
この台風によって雨に関する過去の記録を更新した地点は九州ではありませんでしたが、期間中降水量は宮崎県の多い所で600mm近くに達するなど、広い範囲で大雨となりました。風に関する記録が更新された地点は九州地方中心に多くありました。
九州・沖縄における水の購買数時系列
今回の台風10号において、飲料水需要にどれほどの影響がみられたか、まずはグラフで確認します。図1はTrue Dataのドラッグストアパネルにおける、九州・沖縄エリアの2020年1月からの購入数推移を示したものです。購入数の増減率を分かりやすく示すため、2020年8月1か月間の日購入数平均値を1とした割合で示しています。
図を見て一目瞭然のように、9月初めに飛びぬけて高い購入数を示しました。台風10号接近による準備需要と考えられます。では具体的に何日に消費者の大きな購買行動につながったのか、9月に入ってから10日間の購入推移にフォーカスしたグラフが図2です。
結果、購入数が最も多かったのは、4日(金)でした。飲料水の準備は前日でも間に合いそうな気がしますし、曜日を考えると来店客数は一般に金曜日よりは土曜日のほうが多くなることが多いので、5日(土)がピークになると考えても違和感ありません。それが少し早めの4日(金)になった要因として、以下の2つを考えてみました。
1.天気が良かった
9月2日(水)~6日(日)にかけての九州地方での天候推移を表1にまとめます。2日(水)~3日(木)は、台風10号より先に九州の西を北上した9号の影響を受け、曇や雨のぐずついた天気となった地域が多くありました。一方、5日(土)は秋雨前線の雲がかかり、6日(日)は台風の外側の雲がかかり始めて天気ぐずつきました。4日(金)はその合間で雨が降らなかった(降水量を観測しなかった)地域が多かったため、そのタイミングで飲料水を買いに出かけた家庭が多かったものと想定されます。
2.早い段階から備えておこうという消費者の意識が高かった可能性
今回の台風は、気象庁が異例の早い段階から注意喚起をしていたこともあり、需要集中による店舗での欠品を嫌って消費行動が少し早めだった可能性があります。
つまり、早い段階から台風が当地に接近する可能性が極めて高いと予想され、準備期間がある程度確保されているときは、直前よりは少し余裕をもって、且つ天気の良い日に重要が急集中する可能性があることが仮説として立てられます。
水需要の急拡大はどのエリアまで見られたか
今回の台風10号で、飲料水の購入数の急激な上昇が見られた地域はどの範囲でしょうか。九州・沖縄以外も含めた各地域のドラッグストアの購買データから求めた集計値が表2です。表中、下段のカッコ内の数値は、前週同曜日と比較した指数の差です。曜日による購入数増減の効果を割り引いて考える際の参考に示しています。九州・沖縄では、ピークの9月4日(金)には、8月の1日あたりの平均的水準と比べて約6.7倍の購入数となりました。それに比べると指数は小さいものの、四国、中国地方でも指数が1.5を超えた日がありました。一方、近畿よりも東の地方では指数が1.5を超える日はありませんでした。また併記している前週同曜日と比較した指数の違いをみても、指数が0.5以上大きくなってはおらず、ほぼ通常の購買動向の範囲内と見なして差し支えないと考えます。今回の台風10号のケースでは、九州・沖縄だけでなく、四国、中国地方まで台風接近に備えて飲料水を求める購買行動がみられたようです 。
台風など異常気象時の購買動向把握が重要
台風による生活者の需要は、台風の規模や予想進路、影響範囲、報道に費やした時間といった注目度など、様々な要因によって変わります。今回の分析結果はどのくらい前から、どのくらいの規模で、またどのくらいの地域的な範囲で対策を取るべきか、非常に貴重なケーススタディーとなりました。こういった分析の積み重ねが、企業の異常気象時MDの精度向上に活かされることで、地域住民が安心して必要なものを購入できる買い物環境につながるはずと考えます。
気象データと購買データを掛け合わせた分析にご興味のある方はぜひお気軽に当社へお問い合わせください!
株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。