こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。静岡県浜松市で8月17日、国内歴代1位タイ記録の41.1℃の最高気温が観測されるなど、今夏も「危険な」と表現されるような猛烈な暑さとなりました。早くも8月の終わりに近づき、朝晩の空気など、徐々に秋到来の気配を感じられるようになってきています。今回のブログでは秋の気配とともに食べたくなる商品について紹介したいと思います。
商品前線とは
当社では「商品前線」というサービスを提供しています。商品前線とは、商品の購買動向変化期である「売れ始め」「ピーク」「収束」の時期と、地域による違いを図で示したものです。このたび当社では、本年の秋物季節商品の売れ始めを示す「商品前線」を発表しました。サクラの開花前線や、モミジの紅葉前線と同じような位置づけで見ていただければと思います。今回はその中で特に重要な「売れ始め」のタイミングがどの地域でいつ頃か、またどのような面的広がりを示すのか具体的な商品前線の図で解説していきたいと思います。
ここでは今回発表した商品前線の一つ、「シチュー前線」について取り上げます。シチュー(当社カテゴリー名では「インスタントシチュー」)は、気温が高いときは購入数が少なく、気温が低いときに購入数が多い典型的な降温商品(秋冬向きの商品)です。特に季節の進み(気温の降下)にともなって購入数が増加する割合の大きい8~11月で区切って、気温と購入数の相関係数(※)は-0.85にも達するほどの相関の強さとなっています。
※相関係数とは:2種類のデータの関係性の強さを −1 から +1 の間の値で表した数のことです。今回は‐1に近い数字ですので、「気温が低ければ低いほど購入数が多くなる」といえます。
時期を区切った理由は、時期によって気温変化に伴う購入数の増減の割合が異なる場合があるからです。気温と購入数の相関性が強い商品の中には、夏の暑さのピークを過ぎ、気温の低下に伴って購入数が増える過程で、一定水準の気温を下回ると、購入数の伸び率が一層大きくなるものがあります。シチューがその一例です。
気温低下に伴う購入数の伸び率が大きくなる温度を当社では「変曲温度」と呼んでいます。流通小売業であれば、変曲温度に到達する頃からお客様のニーズがより強まるので、それに向けて発注仕入れの量を増やしたり、売場を大きくしたりなどしていただくと良いでしょう。同様にメーカー側ではその頃から小売り側での発注量が多くなることを想定して在庫を厚くしたり、場合によっては生産能力を高めたりした対応していただくと良いでしょう。特にメーカーの場合、日本全国に商品を出荷しているのであれば、地域によって配荷時期をずらすこともあるでしょう。商品前線がそのタイミングを見極めるための一助となればと考えています。
今秋の天候は?
気象庁が8月25日に発表した3か月予報(図1)によると、今秋はまだ当面このまま高温傾向となる地方が多いという内容になっています。平年に比べて冷え込みが弱いことが考えられます。ただし、昨年の秋の天候と比較した場合、昨年の秋も9月上旬、9月下旬~10月上旬などを中心に顕著な高温の時期が多くあったため、昨年と大きく違わないと考えても良いかもしれません。
シチュー前線
過去のシチューの購入数とそのときの気温の関係を分析し、変曲温度を求め、今年今後予想されている天候状況(長期予報)を反映して今秋のシチュー前線を表現したのが図2です。
秋物商品の前線なので、通常は北の地方からスタートして季節の進みとともに南下するのが王道パターンです。今秋は、先述の長期予報のとおり、平年に比べて気温が高く、冷え込みが遅くなると予想される分、前線の到達時期も平年に比べて遅くなる可能性が高いと考えられます。ただし、昨年と比較した前線の到達時期はそれほど変わらないかもしれません。
以上を踏まえて今秋のシチュー前線の動向をみていきます。北海道では、この先の天候が高温の可能性が高いといえども、年間の気温トレンドが下降に転じる8月中旬には購入数の増加が始まり、前線がスタートします。その後、東北地方を南下していきますが、関東や中部などよりも早く8月下旬には、九州、四国、中国、近畿地方へのシチュー前線の到達を予想しています。
西日本では今夏のピーク期、最高気温が40℃近くにまで達する日が続くなど記録的な高温となりました。今後は季節の進みに合わせて徐々に気温が下がっていくため、気温がまだ平年を上回る水準であったとしても、体感的な暑さは比較的順調におさまっていくと考えられます。そして9月中旬頃になってシチュー前線が関東地方に到達し、9月下旬には中部地方に達する見込みです。前線が単純に北から南に進行していくのではなく、少し変則的になると予想されており、興味深い内容です。
当然、特売の実施などによって需要の高まるタイミングは前後することがありますが、是非時期的な目安、需要の拡大する面的な広がりを見極める上で参考にしてみてください。
自社商品の商品前線作ってみませんか?
自社商品の気温や季節との関係性は漠然と掴んでいても、温度帯による購入数との関係性の微妙な違いや、地域性まで詳しく把握するのは難しいことです。そこは、さまざまな気象条件と購入数の関係を分析、研究してきた専門家に是非お任せください。秋冬商品であれば単純に北の地方から南へ、春夏商品であれば単純に南の地方から北へ配荷していけば良いとは限らない場合があります。もう少し細かく詳しく、そして直近の長期予報も取り入れることで、在庫管理をより適正に行うことができるよう、お手伝いをさせていただきます!
気象データと購買データを掛け合わせた分析にご興味のある方はぜひお気軽に当社へお問い合わせください!
株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。