メーカー企業のための気象&購買データ活用法       第5回 今後の日本の気候はどうなっていくのか?

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。『メーカー企業のための気象&購買データ活用法』第5回の本稿では、今後の気候変動の方向性について解説します。流通業界において、これからの時代のMDを策定する上での基本的な考え方になっていくことでしょう。是非参考にしていただきたいと思います。

ますます加速する温暖化

欧州連合(EU)の気候監視ネットワーク「コペルニクス気候変動サービス(The Copernicus Climate Change Service:C3S)」が2024年11月7日、地球温暖化に関するセンセーショナルなレポートを発表しました。同機関の解析によると、産業革命前に比べて世界の平均気温が1.48℃高かった昨年(2023年)に対して、今年(2024年)はそれをさらに上回り、産業革命前に比べて平均気温が1.55℃程度高くなる可能性があることを示唆しました。

国連気候変動枠組条約締約国会議(Conference of the Parties)を略称で(COP:コップ)と呼びます。毎年11月頃に行われ、今年はその第29回目(COP29)が11月11日~22日、アゼルバイジャンで開催されたところです。今回のC3Sの発表がセンセーショナルだった根拠は、2015年にフランスで行われたCOP21にさかのぼります。

COP21にて採択された気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(パリ協定)の第2条及び第3条で、以下のような目的が掲げられています。

C3Sの今回の発表は、気温上昇幅1.5℃に抑制する努力を追求するというパリ協定の達成目標が、今年早くも崩れてしまう可能性が高まっていることを示しています。近年の地球沸騰化は、気象学者の予想を上回るほどのスピードで進行しているのです。

気象要素別、今後の展望

前項で示した近年の温暖化の状況は、実際の世界の気象観測データに基づく解析結果です。地球温暖化の原因であり「地球温暖化物質」と呼ばれる二酸化炭素、メタンなどの排出量が現在も年々増え続けている中で、温暖化が一朝一夕におさまることはありません。現状の地球温暖化の進行は、我々の日々の生活や経済活動にどのような影響を与えるのか、という観点で、気象要素ごとに今後の展望をまとめます。

気象要素ごとのポイントは上図をご参照ください。流通業界において特に重要な気象要素について、以下に詳しく解説していきます。

  • 気温

南からの暖かい空気が入りやすい期間すなわち3月頃から10月頃にかけて、地球全体の大気温及び海水温が高い影響を受け、平年と比べて高い時期が多いでしょう。11月から2月は北極方面からの上空寒気(周辺に比べて気温の低い領域)の影響を受けることが多いため、温度の高い大気、海水の影響を受ける度合いは夏場に比べると小さくなります。

以上を踏まえて年間での気温傾向を考えると、寒気の影響さえなければ気温の高い時期が多いものの、時折寒気の影響を受けて気温が急激に下がるタイミングがある、という繰り返しになりそうです。なお、寒気は冬場に日本上空に南下することが多いですが、季節に限らず日本上空にやって来ることがあります。気温の急降下は、冬場に限った現象ではないこと、ご注意ください。

  • 降水量

地表面付近の気温は、地球温暖化などの影響で上昇傾向ですが、上空の気温は人間の経済活動の影響を直接受けにくく、まだそこまで顕著な上昇は起こっていないと考えられます。従前に比べて上下方向(専門用語では「鉛直方向」といいます)の空気の動きが活発で、雲が発達しやすくなっています。つまり1回に降る雨の量が増えるということです。ただ地球全体として水の量が増えているわけではないので、降る量が増える分、降る回数あるいは降る領域が減ることでバランスが取られることになります。

局地的な短時間強雨、いわゆるゲリラ豪雨の頻度は緩やかに増える傾向でしょう。一方で雨の降りにくい領域が増えることによる沙漠化、干ばつのリスクが高まることも認識しておく必要があります。

上記で説明した降水量の状況は、雨だけでなく雪でも同じことが言えます。降るときの温度が違うだけです。短時間での局地的なドカ雪は、その土地の排雪能力を越えてしまう可能性が高く、交通障害、着雪、雪の重みによる屋根やビニールハウスなどの倒壊のリスクが極めて高まります。

まとめ

“地球沸騰化”の副作用は、あらゆる気象要素において、高/低や、多/少の振れ幅が大きくなるということです。流通に限らず各企業は、安定的な事業継続にあたってあらゆるリスクを想定し、対策を講じていることでしょう。いわゆるBCPの分野です。現在進行中の気候変動は、様々なリスクの範囲の拡大や、影響を受けたときの規模の甚大化につながります。企業としてどの範囲までのリスクを自社で取るのか、どの程度の規模で対策を実施するのか、判断軸の見直しが迫られています。

今回解説したような気候変動が続いたとすると、将来の日本の気候は具体的にどうなってしまうのでしょうか。次回は2050年の日本の気候について、大胆仮説をお示ししたいと思います。

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。