こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。『メーカー企業のための気象&購買データ活用法』(第3回)では、長期予報を基にした売上のシミュレーション方法について説明しました。今回は、長期予報の内容から、自社商品の売上にとって逆風となる気候が予想されている場合に対策を取るべきかどうかを判断する手順について解説します。是非参考になさってください。
コストロスモデルとは
気象庁ホームページ内の、季節予報解説ページにもコストロスモデルの説明がありますのでご紹介します。説明の一部を引用すると、「損失を防ぐために対策を施した場合にかかる費用(コスト)と、何も対策を施さなかった場合に出る損失(ロス)をあらかじめ把握しておくことで、確率値に応じて最適な対応をとることができる」というものです。
コストロスシミュレーションStep1 条件設定
そのシーズンの気温が「高かった」ときと「低かった」ときに、どれだけの利益が確保できたか、または損失が発生したか、過去の売上データを参照します。例えば、冬物季節商品のデータを見る場合、一般的には冬季の気温が低ければ利益額が大きくなっているはずです。逆に気温が高ければ利益額が小さくなっていて、場合によっては損失が発生したかもしれません。
ここで、過去の実績で損失が発生した場合、あるいは気象条件的に売上が苦戦することが事前にわかっていた場合、損失を出さない(最小限にする)ためにどのような対策を講じたか、当時を振り返ります。その対策を実施した際に追加でかかったコストの規模も、コストロスモデルでは重要になるので試算しましょう。
コストロスシミュレーションStep2 計算準備
季節予報の確率値に対応して、そのシーズンの売上の“期待値”の計算を行います。文章だけでは説明しづらいので、架空の例による具体的なイメージを示します。
(例) 冬物季節商品(寒いときに売れる商品)の、冬季の予報に基づく計算
まずは、暖冬対策(売上落ち込み対策)を行わなかった場合と暖冬対策を行った場合の2パターンで、気温が高かった場合、平年並だった場合、気温が低かった場合の利益・損失額を、具体的に以下のマトリックスに入れていきましょう。
ここで、暖冬対策にかかるコストを0.1億円と仮定します。(※暖冬対策をして気温が低かった場合の利益0.8億円とは、結果的に不必要だった対策を実施したために、暖冬対策にかけた0.1億円のコストとは別に、利益が0.2億円目減りしたことを示します。利益の目減りが発生しない場合は無視して考えてください。)
コストロスシミュレーションStep3 季節予報を用いた期待値計算
シミュレーションとして、①暖冬予報が出されている場合、②平年並の冬の予報が出されている場合、③寒冬予報が出されている場合、それぞれ暖冬対策をすべきかどうか、計算してみます。
- 暖冬予報(確率表記が「低い」:「平年並」:「高い」=20:30:50の場合の損益予想
- 並冬予報(確率表記が「低い」:「平年並」:「高い」=30:40:30の場合の損益予想
- 寒冬予報(確率表記が「低い」:「平年並」:「高い」=50:30:20の場合の損益予想
上記3パターンのシミュレーションを見ると、暖冬予想が出ている場合は、暖冬対策をした方が、損益的に利益が大きいことが分かります。それに対して平年並あるいは寒冬が予想される場合は、暖冬対策を行わないほうが、対策を行うよりも利益が大きいことが分かります。
まとめ
長期予報は確率表示になっているが、どのように活用して良いか分からないというメーカー企業の声をよく聞きます。しかしそのような活用しづらいと感じる予報であっても、上記のように期待値の計算に利用すると、大いに活用用途があると感じていただけるのではないでしょうか。
次回は、昨年今年の夏の異常な猛暑含め、今後の気候変動の方向性について解説します。
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〇「メーカー企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら 第一回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240801 第二回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20240901 第三回 https://www.truedata.co.jp/blog/weather_marketing/20241001
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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。