今冬の予報に基づく、流通業界でのチェックポイント

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。9月24日、気象庁から12月~2月を対象とした今冬の長期予報(寒候期予報)が発表されました。今回は、昨冬との気候差も加味しながら、今冬の予報に基づく流通業界でのチェックポイントをまとめます。

寒候期予報の内容

気象庁9月24日発表の寒候期予報の内容を示します。図1は気温、図2は降水量、図3は降雪量の予想図です。まずは図1の気温予想から確認します。

図1 寒候期予報(気温) ※気象庁2024年9月24日発表

地域によって多少色味に違いはありますが、予想の表現としては全国的に「平年並」です。

図中、各地方名表記の下に記されている「低い」「平年並」「高い」それぞれの確率を示す3つの数字のうち、最も高い値が40(%)、最も低い値が30(%)の場合を指します。色味の違いは、確率40(%)となっている階級の違いを示し、少しニュアンスが変わります。今回の場合、奄美及び沖縄地方では「高い」確率が40%となっています。平年並の予想でも、高めにぶれる可能性が比較的高いことを示唆しています。一方、関東甲信、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州北部、九州南部では「低い」確率が40%となっています。こちらは低めにぶれる可能性が比較的高いことを示唆しています。東北及び北海道では「平年並」の確率が40%となっており、現段階では高めあるいは低めにぶれる可能性はそれほど高くないということです。

続いて、図2の降水量の予想を確認します。

図2 寒候期予報(降水量) ※気象庁2024年9月24日発表

大局的に見ると、日本海側で多め、太平洋側で少なめの予想となっています。この期間、冬型の気圧配置(日本海側では雪や雨が降りやすく、太平洋側では晴れやすい)となる時期が多いことを示唆する内容です。

最後に図3の降雪量の予想を確認します。

図3 寒候期予報(降雪量) ※気象庁2024年9月24日発表

降雪量の予想は、冬季の雪の量が多い地域のみで発表されます。今冬の予報では、発表対象となっている山陰以北の日本海側の地方全てで平年より多い確率、平年並の確率いずれも40%となっていて、予想の表現としては、「平年並か多め」です。

昨冬の天候実績

図4 昨冬の気温(上)、降水量(中)、日照時間(下)の平年比のマップ
※気象庁2024年3月1日発表

図4は、気象庁が作成した昨冬の気温、降水量、日照時間の平年比のマップです。昨冬はほぼ全国的に顕著な高温でした。強い寒気が南下して厳しい寒さとなったのは、12月半ば過ぎと、1月下旬の西日本、2月末の北日本の実質3回だけでした。それ以外は特に強い寒気の南下はなく、冷え込みの弱い状態が続きました。

降水量に関して、暖冬年は通常、日本海側で平年より少なく、太平洋側で平年より多くなる傾向がありますが、昨冬に関しては、通常の冬にはあまり見られないような、日本付近を発達しながら進む低気圧の影響を何度か受けたことから、地域によって多い、少ないがまちまちでした。

図5 昨冬の降雪量実績 ※気象庁2024年3月1日発表

昨冬の降雪量(図5)は、平年を上回ったのはごく一部で、全般に平年より少なく、東北や山陰ではかなり少なくなりました。ただし、短時間のドカ雪リスクが高いことを知らせる「顕著な大雪に関する気象情報」がシーズン中2回(12月22日:富山・福井・石川、1月24日:福井・滋賀)発表され、短い期間ではありますがドカ雪となったこともありました。

全般のウェザーMDのポイント

今冬は全国的に気温が平年並で、冬物季節商品は全般にまずまず売上好調が予想されます。少なくとも記録的暖冬だった昨冬に比べると気温が低くなる地域が多い予想なので、冬物の昨対比はかなり高い水準が期待できることでしょう。昨対比100%程度ではむしろ、成績としては不十分な内容と考えるべきです。日本海側の各地では除雪用品も昨冬に比べて大きな伸びが期待できます。

参考までに下表に、日用品、食品それぞれの部門における、寒い時に売れるカテゴリベスト5を示しました。積極的に売り込む、販促を強化するカテゴリ選定の際、参考になさってください。

表 売上と最低気温の間の、強い負の相関ランキング上位5カテゴリ

地域別、ウェザーMDのポイント

続いて、地域に分けて今冬に予想される天候に基づくポイントを解説します。

  • (1)日本海側の各地

冬型の気圧配置となる時期が多いとの予想から、上空寒気が頻繁に南下し、雪や雨の降りやすい日が多く、また積雪も平年より多めとなることが考えられます。特に豪雪地帯といわれる地域では、除雪費用がかさむことによる除雪予算の早期枯渇に注意しましょう。

気温は平年並みと予想される一方で、北日本周辺の海水温は平年よりかなり高い状態が続いています。海水温が高ければ例年に比べて水蒸気の供給量が多くなり、その結果一回の雪または雨が多くなりやすい傾向があります。近年、短時間の強い雪による積雪の急増が原因で交通障害の発生する頻度が増えています。「顕著な大雪に関する気象情報」が気象庁から発表された場合は、物流に大きな影響が及ぶおそれが高まっていますので、その地域を避けて迂回するルートを選択した配送を行うなど、対策を講じましょう。

  • (2)太平洋側の各地

例年以上に、晴れて空気の乾燥した状態が続くと考えられます。第一の注意点は、インフルエンザなどをはじめとした感染症の流行拡大です。インフルエンザやノロなどは乾燥を好むウイルスと言われており、例年以上の乾燥が予想される太平洋側の地方ではこれらの感染症の流行が拡大する懸念があります。従業員の健康管理も大事ですし、風邪対策商品の需要拡大への対応もしっかり行いましょう。

通常、寒冬年は太平洋側では大雪のリスクは低いと言われますが、東日本の太平洋側に関しては、紀伊半島での黒潮の大蛇行の影響で例年以上に暖流の影響を受けやすい状況が続いています。南岸低気圧の頻度は例年より少ないかもしれませんが、数少ない降雪機会でも大雪に見舞われるリスクは例年以上と考えておくべきです。

  • (3)南西諸島

冬型の気圧配置が続きやすい天気図パターンの場合、南西諸島では北東の風が吹きやすく、例年以上に雲の取れにくい天気の日が多くなる可能性があります。そもそも冬季はオフシーズンの南西諸島ですが、レジャー業界あるいはレジャースポット近隣の商業施設は例年以上に客の入り込みが不調となる懸念があります。来店促進のための企画を検討したいところです。

まとめ

夏は暑い方が、冬は寒い方が、日本全体の景気としてはプラスに作用することが多いため、平年並の寒さが予想される今冬は全般に活発な消費を期待したいところです。ただ地域によっては大雪リスクの高まりなど、例年以上にシビアな状況になる懸念もあります。期待される点、懸念される点をそれぞれ整理して今冬のMDを組み立てましょう。

なお、寒候期予報の内容は、あくまでも“予報”です。平年並の予想といえども、南西諸島では40%、それ以外の地方でも30%の確率で気温が高めとなる可能性が示唆されていることは認識しておく必要があります。

今回の寒候期予報の内容の根拠として重要な要素となっているのがラニーニャ現象の発生ですが、10月10日に気象庁が公開した最新のエルニーニョ監視速報によると、今冬のラニーニャ現象の発生確率がやや低くなったようです。一時的にラニーニャ現象の基準を満たす状況になったとしても、それがおおむね半年程度の時期的スパンをもって継続しないと、ラニーニャ現象が発生したとみなされないことがあります。今冬、ラニーニャ状態があまり長続きしない予想に変わりつつあります。

ラニーニャ現象が発生しない場合、今冬の気温は高めにぶれる可能性が高まるため、上記のウェザーMDのポイントが必ずしも当てはまらなくなることも考えられます。その可能性が示唆された場合は、予報内容に合わせていち早く善後策を検討すべきです。3か月予報だけでなく、毎月10日頃公開されるエルニーニョ監視速報にも注目しながら、臨機応変に今冬のMDを微調整していきましょう。

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。